ジルサンダー氏の思想を纏う服。2020AW「+J」購入アイテムレビューと総括まとめ
2020年国内最大級のファッションイベントであるユニクロ×ジルサンダー「+J」2020AWコレクションが発売となりました。
世界的デザイナーとのコラボコレクションを継続的に展開・成功させているユニクロの中でも、圧倒的な期待値の高さを見せつける結果になったジルサンダー氏との協業復活劇。
良い意味でお祭り、悪い意味で大騒動を巻き起こした今回の+Jは、良くも悪くも大きな話題を呼ぶ一大イベントとして幕を開けました。
高い評価と阿鼻叫喚が入り混じる結果になった+J 2020AWを、購入アイテムのレビューとともに総括したいと思います。
※ユニクロ+J 2021AWラストコレクションのレビュー書きました。
ウールテーラードジャケット&ウールスリムフィットパンツ
まずは今回のユニクロ×ジルサンダーの+Jコレクションの中でも筆者の大本命、ウールテーラードジャケット&ウールスリムフィットパンツのセットアップをレビュー。
発売前の記事に書いたように、最も気になるアイテムとして紹介したジャケット&パンツのセットアップ、オンラインで無事購入できました。カラーはブラックをチョイス。
ルックで見た際にひときわ異彩を放っていたこちらのアイテムに完全に心奪われました。今回のコレクションの中でも個人的なマストバイ、圧倒的No.1。
発売直前に公開されたムービーにも最後の決め手として購入を後押しされました。
まずはその素材。
国産テキスタイルメーカーであるNikke(ニッケ)社 / 日本毛織株式会社のウール100%素材を採用。
ニッケの生地といえば、同じく国産テキスタイルメーカーであるMIYUKI(ミユキ) / 御幸毛織と双璧を成す日本を代表する高級スーツ生地ブランド。オーダースーツなどに馴染みのある方であれば、一度はその名を耳にしたことがあるという人も多いはず。
ニッケ社は120年を超える老舗生地メーカーで、原毛からの糸作り→生地織りまで一貫生産で行っており、世界的にも高い評価を獲得するその品質の良さは正に折り紙付き。
そんな日本を代表する生地ブランドとジルサンダー氏の手による仕立てとあれば、もはや買わないという選択肢はありませんでした。
プチ素材厨を自称する筆者にとっては垂涎の一品。生地の光沢感と特殊加工を施したというハリ感が素晴らしい。重厚感すら感じられるほどしっかりとした生地の厚みもあります。
+Jのテーラードジャケットは、仕立てにも当然こだわりが詰まっています。
平面に起こすのではなく、トルソー(ボディマネキン)を活用した3Dデザインを得意とするジルサンダーらしい立体的なシルエット。
ジャケットもパンツもラインが抜群に綺麗で、着用した時に気づく着心地の良さも素晴らしい。
2017年の記事ですが、ジルサンダー氏のトルソーに対する並々ならぬこだわりの片鱗が感じられる逸話が公開されているので共有しておきます。
ニッケ生地との相乗効果で、ジャケットの命でもある胸元のハリ感が抜群に良い。スーツのタイプとしてはややブリティッシュ(英国)風といったところでしょうか。
野暮ったさの無いスッキリとしたアームホール、袖口の重ねボタン仕様は手元にも立体感をプラスし、ややカジュアルダウンしてくれる効果も。(欲を言えば本切羽(袖ボタンを外せる仕様)だとなお良かった…実用性はほぼ無いけど)
昨今のセットアップスタイルと言えば、ややオーバーサイズをゆるく柔らかく着こなすようなワークっぽいスタイルがトレンドかと思いますが、そこへビシッとスーツライクなモダンクラシックスタイルのセットアップを放り込んでくるジル姐さん。凄くドレッシー。
ただクラシカルなだけでなく、ややゆとりのある肩の落ち感やウェストのシェイプも効かせていて、さりげなく今っぽさもプラスされています。
フォーマルシーンはもちろん、せっかくならカジュアルに崩してヨーロピアンな着こなしも楽しみたい逸品です。
いっそのことジレもアイテム投下して、スリーピースのセットアップとしても見てみたかったよ…裏地もキュプラで…内ポケットは台場仕立て(※)で…あとはボタンの素材…本毛芯…と細かいコトを言い出したらキリがないけど、この価格・この素材・この仕立てに対して、これ以上の注文を付けるのも野暮すぎるのでこの辺で。
要は大満足。
※2021AWのウールジャケットと比較してみました。21AWのウールジャケットはニッケ素材では無いながら、お台場仕立てなど細部の仕立てが変更されていてこれはこれでよかった。
renacnatta(レナクナッタ)のポケットチーフ
胸元のアクセントとしてポケットチーフを合わせて見ました。
こちらのポケットチーフは、renacnatta(レナクナッタ)というブランドのクラファンプロジェクトで購入。
80年代イタリアのビンテージシルクに、職人の手による金彩を施した一枚。
レナクナッタとは、歴史と文化を肌で感じられるデッドストック生地を活用したブランド。
今年は西陣織マスクをリリースして大きな話題にもなっていました。もはや織物文化の伝道師的な。
アイテムリリースの度に即完売なので、こちらのブランドも毎回争奪戦です。(メインアイテムはピアスとスカート。最高に可愛い)
一度公式サイトを覗いて見てください。
ウールスリムフィットパンツは店舗で裾上げ。
腰で履いてツークッション、ウエストベルト留めでジャスト~ハーフクッション位の長さに設定しました。
ビシッとフォーマルスタイルはもちろん、やや着崩したカジュアルコーデにも寄せやすいようなイメージで。
ジャケットに同じく、素材感とシルエットが抜群に良いのでオンオフどちらでも上手に使いたいアイテム。
※21AWの梳毛生地セットアップと比較してみました。生地の違いはもとより、仕立てが全然別物に生まれ変わっています。
スーピマコットンレギュラーフィットシャツ(隠しボタンダウン)
続いて、スーピマコットン素材を採用した隠しボタンダウンシャツ。
カラーはネイビー。発色が絶妙に美しい…
ボタンダウンシャツとは、ノーネクタイでもシャツの襟が綺麗に立つ仕様なわけですが、通常であれば襟の先にボタンホールが入るところを襟裏のループで留める隠しボタン仕様。
そのため、ボタンダウンシャツでありながら首周りをシンプルに仕上げ、カジュアルさを抑えている。それでいて隠しボタンまで貝ボタン仕様という贅沢ぶり。
当初、メンズシャツには貝ボタンの記載が無かったためひょっとしてレディースのみ?と思っていたのですが、ちゃんと貝ボタン仕様でした。(貝ボタンは触るとひんやりします)
このシャツのディティールへのこだわり様が、ジルサンダーが手掛ける「+J」コレクションを象徴するシャツであることを感じさせます。
(余談ですが、ボタンダウンシャツを開発したとされているのが今年話題になったあのブルックスブラザーズ…諸行無常)
レザーバックルベルト
+Jのレザーバックルベルトは、今回のコレクションの個人的裏マストバイ(?)な一品。
この手のワンタッチ式サイドリリースを取り入れたバックルベルトは、マルジェラやモンクレールなどのメゾンブランドでも極々まれに見かけるのですが、こんな特殊な形状のベルトがユニクロ価格で買えるとは…攻めすぎ。
しかもバックルの質感が絶妙に良い。まるでクロムの様な鈍い輝きと、動いた時のカキンッ!というZIPPOのような金属音がたまらない!
ベルト本体にはレザー素材を採用し、更に表面と裏面のレザーが異なるというこだわりっぷり。
サイドリリースバックルの本来の用途や性質から、ワークやアウトドアを思わせるディティールの要素を備えつつ、それでいて素材でラグジュアリーな質感を担保してくれているので、今回の+Jコレクションのキレイ目・モードに振りがちなアイテム全般とのコーディネートの統一感とバランスを保ってくれる存在になると思います。
スーピマコットン オーバーサイズシャツ
今回唯一実店舗で購入したアイテム。比翼仕立てのスーピマコットンオーバーサイズシャツ。カラーはブラック。
ルックでイチオシされていたものの当初は購入を見送るアイテムとして見ていたのですが、店頭での実物を見て思わず購入していました。
今回の+Jコレクションは、やはり前作の評判と同様にシャツのクオリティが異常なほど高い。
スーピマコットンを平織りした滑らかな肌触りと光沢感。
一般的なオーバーサイズよりも更に一回り膨らみを感じるような奥行のあるシルエットで、にも関わらず実際に袖を通すと意外なほどスッキリと綺麗にラインが見えるシルエットは、やはり3Dデザインを得意とするジルサンダーの手腕によるものなのか。
ただ横に大きいだけじゃない、オーバーサイズシャツとはこういうものだよと言われているような気さえします。
コレクション名の「+」を表現したような切り替えも案外野暮ったさを感じることなく着用できる。
こちらのシャツにも天然の貝ボタンを採用していて、それでいてわざわざ比翼仕立てで隠れているあたりがニクい。
最下部切り替え部分のみ、ボタンホールの代わりにループ留めを採用。
今回のシャツカテゴリで1つだけ懸念点を挙げるとすれば、貝ボタンの耐久性。
洗練された印象で高見えする貝ボタンですが、繊細な天然素材であるがゆえに耐久性には不安が付きまといます。
念のため店頭に並んでいたシャツをいくつか手に取ってみると、一部ボタンの「欠け」が発生しているっぽいアイテムが1点。表ではなくボタン裏辺り、もともと(ってことは無いだろうけど)か店頭で欠けたのかは不明。今後通常のシャツと同じように洗って割っちゃうような人も出てくる気が…(最低限洗濯ネットを使いましょう)
「ライフウェア」としてはどうなんだろ?という不安を覚えつつ、ユニクロの課題としてボタン素材などへの追求が必要なのもまた事実。しかも今回はご丁寧に予備のボタン付きなわけです。
ユーザーとしては大いに挑戦してもらいたい部分でもあります。あとボタンの縫製もね。
コート類には今後水牛ボタンをお願い。
2020AW+Jコレクション総括
今回待望の復活を遂げた「+J」コレクション。復活第一弾としてのアイテムの総評としては、文句のつけようのないほぼ完璧な仕上がりだったと言えるでしょう。
アイテム全般を通して、ジルサンダー氏の「立体的な仕立て」を存分に感じられるコレクションになっていたと思います。色味も美しい。
ルックからも感じられる通り、相当気合の入ったコレクションだったことは明白です。それがユーザーからの期待の大きさによるものなのか、はたまた完璧主義者のジルサンダー氏の意向によるものなのかは定かではありませんが。
結果、想定以上のお祭り騒ぎになったのは言うまでもありませんね。
コラボ復活に対して当初は懐疑的に見ていた筆者も、ラインナップを見て度肝を抜かれましたし、何より発売までのワクワク感が最高に楽しい気分にさせられました。
今後の課題があるとすれば、やはり販売方法に関する部分でしょうか。
異例とも言える実店舗での購入制限にも関わらず想像以上の騒動に発展してしまったため、恐らく次回以降の販売に関しては今回以上の対策が講じられることになるとは思います。(正直、店舗や販売者だけの責任とも思えませんが…)
相変わらず人気コレクションはECサイトのお気に入り登録必須だし。
また、発売日がかなりズレ込んでいることや、ECサイトの商品紹介ページからも薄っすら感じられるドタバタ感も今後の懸念材料の一つです。
満を持して復活を遂げた+Jコレクションということで、恐らく春以降も続く年二回のコレクションが数年続く予定にはなっていると思うので、余計なところでミソが付くような結果にはなってほしくは無いですね。
あと価格に関してはコスパを語るには今がギリギリのラインかと。これ以上の価格帯を保つには粗が目立つし、さらにワンランク上の質が要求されることになると思う。
ちなみに、2021SSの+Jコレクションが無事に開催されるのであれば、トレンチコートを買いたいと思っています。(出る前提)
ハリのある綿とナイロンの混紡素材で、ジルサンダー氏が仕立てる唯一無二の3Dトレンチコート。カラーは、今回のウールテーラードジャケットで展開していたようなヌメっとした光沢感のあるダークネイビーを希望。春コートとして是非に。
今から妄想が捗りますね。
ではでは。